高松高等裁判所 昭和30年(う)65号 判決
一、弁護人の控訴趣意中擬律錯誤の主張について、
論旨は被告人の得た不法利益は既に詐欺によつて得たもので暴行脅迫によつて得たものではないから、暴行又は脅迫によつて財産上不法の利益を得たという刑法第二百三十六条第二項に該当せず、惹いては同法第二百四十条の張盗致傷罪をも構成するものではない。又盗罪から始まつた案件ではないから同法第二百三十八条にいわゆる準強盗でもない、結局本件は詐欺と傷害の併合罪として処断すべきものと思料する。然るにこれを強盗致傷罪に問擬した原判決は法律の解釈を誤りその適用を誤つた違法があるというのである。
しかし、無銭飲食を企て代金を支払う意思がないのにもかかわらず飲食物を注文して飲食した場合には所論のようにその時既に詐欺は成立して居るのではあるけれども、騙取した飲食物の価額を弁償支払すべき義務が依然として存するのであり、本件はその支払義務を免れる為犯したものであるから所論は既にその前提に於て当を失する。而して本件は原判決判示のように被告人は無銭飲食を企て代金三百六十五円相当の酒肴を注文して飲食した後その勘定方請求を受くるや、その場を遁れるべく隙を見て千鶴恵を突き倒したがそのままでは到底逃げおおせることが出来ないと考え、同女の反抗を抑圧して飲食代金の請求を免れるべく、矢庭に右腕をもつて同女の背後から前頸部に巻きつけるようにして締めつけ、且つ同女がその場に仰向けに倒れたところを上から両手でその咽喉部を強く押しつけ殆ど失神する迄に至らしめてその場から逃走したのであるから、被告人はその時右飲食代金に相当する金員の支払を免れて財産上不法の利益を得たものであり刑法第二百三十六条第二項の場合に該当するのである。そして本件は右暴行の結果原判決判示のような傷害を負わしめたという事案であるから強盗人を傷したときに当り同法第二百四十条の強盗致傷罪が成立するのである。所論はこれと異る見解に立つて原判決を非難するもので論旨は理由がない。
(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 渡辺進)